メディア掲載
2024年2月20日
このたび、新聞情報社にAgeWellJapanの取り組みを取材いただき、記事として掲載されました。
本記事は、同社の許諾を得て、以下に全文を転載しています。
AgeWellJapanが目指す「Age-Well(ポジティブに歳を重ねる生き方)」や、
多世代交流の取り組みについて、ぜひご覧ください。
▶︎ 掲載媒体:新聞情報社
(※)記事・写真提供:新聞情報社(取材・編集:岡田達也/撮影:小林温知)
▶︎ 掲載日:2026年1月28日
人生100年時代と言われて久しい。超高齢社会を「多死社会」「社会保障費の増大」といった悲観的な文脈だけで語ることに、強烈な「ノー」を突きつける起業家がいる。株式会社AgeWellJapan代表、赤木円香氏だ。「ちょっと長く生き過ぎちゃったかしら」。86歳の祖母が発したこの言葉が、起業の原点だった。彼女が提唱するのは「AgeWell(エイジウェル)」。歳を重ねることにポジティブな価値を見出し、挑戦と発見を繰り返しながら生きる状態を指す。そして終活ではなく「挑戦と発見」。年齢による偏見(エイジズム)のない社会を目指し、中日新聞社をはじめとする地域メディアとの協業に乗り出した氏に、超高齢社会における新聞業界の可能性について聞いた。(取材・構成 岡田達也/写真 小林温知)
祖母の言葉が起点 8割が「ワクワクしていない」現実から見えた真の課題
―起業の経緯について教えてください。
きっかけは、大好きだった祖母の言葉です。祖母は86歳の時にバスの中で転倒し、背中を圧迫骨折してしまいました。幸い、介護や医療が常時必要な状態にはならず、自立した生活には戻れたんです。でも、背筋が曲がってしまったことで、大好きだった着物が着られなくなったり、料理をしなくなったり、一人で美術館に行くのが怖くなったりして、どんどん塞ぎ込んでいってしまいました。
ある日、祖母がふと「少し長く生き過ぎちゃったかしら」と漏らしたんです。その言葉を聞いた時、私は孫として、そして一人の人間として、強烈な憤りを感じました。
人生の最晩年に、家族や社会に対して「申し訳ない」と思いながら生きなければならないなんて、そんな悲しいことはありません。
創業は2020年1月です。ひとりでの起業でした。その1月と2月、100人のシニアの方にインタビューをしました。
「ワクワクしていますか?」と聞きまわった結果、約8割の方が「いいえ」と答えました。たった2割の方しかワクワクしていないんです。驚いた一方で、「ワクワク・シニア」と「ノンワクワク・シニア」の違いは何かを考えました。
転機になったのは57番目と63番目の方でした。健康でも、お金があっても、社会的な「居場所」と「自尊心」がなければ、人は幸せにはなれない。それが分かったんです。
だったら人生100年時代にあって、「終活」のように人生を畳むのではなく、最期まで「挑戦と発見」があるエイジウェルな社会を作りたい。そう思って会社を続けています(【図表1】を参照)。
―メディアが果たしてきた役割について、どのような問題意識をお持ちですか。
メディア、特にこれまでの報道や教科書的な表現の中に、シニアを「守られるべき弱い存在」あるいは「社会のお荷物」として描く傾向が強かったように感じます。
よく見るイラストがありますよね。たくさんの高齢者が、一人の若者の肩にのしかかって騎馬戦のようになっている図。
「少子高齢化で若者の負担が増える」という文脈で使われますが、あれを見ると若者は「高齢者は重荷だ」と刷り込まれますし、シニア自身も「自分たちは迷惑な存在なんだ」と自尊心を傷つけられてしまいます。
でも、現場に行ってみてください。今の60代、70代、いや80代の方でも、とっても元気で、働く意欲も能力もある方がたくさんいます。それなのにメディアがステレオタイプな「弱者」の像ばかりを流すことで、世代間の分断を生んでしまっている。
メディアには、シニアを「支えられる側」から、豊富な知識と経験を持つ「社会の資源」であり「パートナー」なのだと、定義を転換する役割を期待しています。
新聞社との協業 実績と可能性
―中日新聞社との協業に至った経緯は?
弊社は名古屋にあるベンチャーキャピタル・株式会社地球と人と未来から出資をいただいて、その流れで中日新聞社とお会いしました。弊社のエイジウェルという概念に深く共感していただきました。
そこから「四方よし」という座組みが出来上がりました。地方新聞、地元の大学、自治体、企業という4つのステークホルダーを巻き込む座組みで、これを全国展開していく構想です。

今年はこの座組みで全国8拠点で開催する予定です。東京都は東京新聞社とBS朝日、浜松市では静岡新聞社、名古屋市は中日新聞社、秋田県は秋田魁新報社、神戸市は神戸新聞社、愛媛県はあいテレビと組んでいます。
―地域メディアとしての新聞社の強みと活用可能性をどう感じましたか。
イベントを実施してみて痛感したのは、新聞社が持つ「リアルな顧客接点」の凄さです。ウェブ広告でどれだけ叫んでも届かない層に新聞なら届く。特にシニア層において、新聞という媒体への信頼度は絶大です。
新聞社はこれまでも文化イベントや健康フェアを開催されていますよね。そこにエイジウェルの概念を組み込むだけで、イベントの空気がガラッと変わります。単なる「健康診断」や「見守り」ではなく、「人生を楽しむための知恵」や「新しい趣味との出会い」の場に変える。そうすることで、シニアの方々の目が輝き出すんです。新聞社が持つ「集客力」と、私たちが持つ「行動変容を促すコンテンツ」を掛け合わせれば、地域全体の活性化に直結すると確信しています。
―新聞社はシニア読者をどう再定義すべきだとお考えですか。
これまでは「情報の受け手」や「購読者」として捉えていたと思いますが、これからは「共創パートナー」と再定義すべきです。
東京大学の秋山弘子名誉教授が提唱されたワードに「貢献寿命」という概念があります。
私たちはそれに賛同しています。健康寿命のその先にあるもので、誰かの役に立っている、社会と繋がっていると感じられる期間のことです。シニアの皆さんは、自分の知識や経験を誰かに伝えたい、役に立ちたいという欲求を強く持っています。
例えば、新聞記事の感想を投稿してもらうだけでなく、地域の課題解決にシニアの知恵を借りる。シニアを「お客様」扱いするのではなく、一緒に地域を良くしていく「仲間」として巻き込んでいく。そうすることで、新聞社と読者の関係性はより強固で、双方向なものになるはずです。
新聞販売店ネットワークとの協業可能性
全国約1万2000店の新聞販売店との協業について、どのような可能性を感じますか。
新聞販売店は日本最強の「リアル・プラットフォーム」だと思っています。毎日、各家庭の玄関先まで行けるインフラなんて他にありませんから。
このネットワークに、私たちのノウハウを乗せることで、販売店は単なる「配達拠点」から「地域のエイジウェル拠点」に進化できます。
私たちは「もっとメイト」という孫世代の若者がシニアの自宅を訪問し、スマホの使いかたから散歩の同行まで、生活の彩りをサポートするサービスを展開しています。これを販売店の機能として実装できれば、ものすごい社会的インパクトになります。
新聞販売店の方は、どのお宅がどんな銘柄のビールを飲んでいるかまで知っていることがありますよね(笑)。その深い顧客理解に、「傾聴」や「承認」のスキルが加われば、最強のコンシェルジュになれます。
―「もっとメイト」のような相棒サービスを新聞販売店が提供すればよいのですね。
十分に可能ですし、むしろ販売店の経営課題解決にも繋がります。今、販売店も人手不足や収益減に悩まれていますよね。「もっとメイト」的なサービスは、新たな収益源になるだけでなく、地域貢献活動としてスタッフのモチベーション向上にも寄与します。
―エイジウェルデザイナーとはどのようなものでしょうか。
「もっとメイト」のスキルを体系的に学んだ人材だとお考えください。エイジウェルデザイナーになるには150時間の研修が必要です。
研修の内容は褒め力、質問力、傾聴力、自己開示などです。例えば褒め力の研修では、「結果を褒めるより過程を褒めた方が刺さりやすい」といった心理学の座学をやった後に、シニア役と若者役に分かれてロールプレイングをして、それで現場に出るという流れになっています。
具体的には、シニアの方に対して「元気ですか?」と聞くだけでは会話は広がりません。でも、「その赤いお洋服、とっても素敵ですね。顔色が明るく見えます」と具体的に褒める。もちろん自分のこともお話します。自己開示しながら質問をすると、相手は「実はね…」と本音を話してくれるようになります。
一方で、私たちはエイジウェルデザイナーが自宅訪問した内容を全部録音して、音声解析をかけているんです。生成AIが話題になる数年前からやっている解析で、何千時間というデータがあります。それを企業さんの新規事業の構築のときに生かしたりもする。
このノウハウは、新聞販売店のスタッフ育成にもそのまま応用できます。弊社では、こうした研修内容を15時間に凝縮したものを一般企業にも販売しています。このスキルを持ったスタッフが地域を回れば、ただの「見守り」ではなく、シニアを元気にする「エンパワーメント」が可能になると考えます。
―新聞販売店の地域拠点化について、具体的なイメージはありますか。
例えば、私たちが一都三県(東京・神奈川・千葉・埼玉)で実践しているように、販売店を拠点にスマホ教室を開いたり、そこに行けば誰かと話せる「サロン」のような機能を持たせたりすることができます。
「見守り」と言うと、どうしても「何かが起きた時のため」というネガティブな前提になりがちです。でも、私たちが目指すのは「楽しみを提供しに行く」こと。販売店スタッフが「今日はこんないいニュースがありましたよ」、「新しいお店ができましたよ」と、ポジティブな情報を届けるメッセンジャーになる。
そうすれば、販売店は地域になくてはならない「ウェルビーイングのハブ」になれるはずです。
事業実績と今後の展開
―新聞記事や紙面との連動では、どのような企画が考えられますか。
新聞の紙面自体を、エイジウェルを実践するための教科書、あるいは「お守り」のように使ってほしいですね。
これまでのシニア向け記事は、「フレイル(虚弱)予防」や「詐欺に注意」といった、不安を煽るものが多かったように思います。そうではなく、「エイジウェルな生き方」をしている格好いいシニアを毎日紹介したり、読者が参加できるポジティブなキャンペーンを展開したりするんです。
例えば、「今週はLINEスタンプを一つ買ってみよう」とか「いつもと違う道で散歩してみよう」といった、小さな挑戦を提案するコーナーを作る。そして、それを実践した読者の声を紙面で紹介する。そうすると「あ、私もやってみようかな」という連鎖が生まれます。新聞を読むことが、日々の小さな挑戦のきっかけになる。そんな紙面づくりを一緒にやりたいですね。
―企業・自治体との協業から得た、新聞業界に応用できる知見をお聞かせください。
ソフトバンクさんやサントリーウエルネスさんとの協業で分かったのは、シニア対応における「接遇スキル」の重要性です。
多くの企業がシニア対応に課題を感じていますが、実は「シニア扱いしない」ことが一番のポイントだったりします。赤ちゃん言葉のようにゆっくり話したり、過剰に手助けしたりすることは、かえって相手の自尊心を傷つけます。
また自治体との連携では、シニアの「出番」を作ることが健康維持に直結するというデータも取れています。新聞社が主催するイベントでシニアにボランティアや講師をお願いするのも、非常に有効な手段だと思います。
―全国展開の戦略と新聞社の役割についてどうお考えですか。
昨年12月の名古屋でのエイジウェルフェスティバル(弊紙12月10日付既報)を皮切りに、全国各地でこのムーブメントを起こしていきたいです。
中日新聞社をはじめ、すでに各地の有力紙との連携が進んでいます。私たちが作ったモデルをそのまま持っていくのではなく、その土地ごとの風土や新聞社さんが持っている資産に合わせて、カスタマイズしていくのが鍵です。
各地域の新聞社さんが旗振り役となって、地元の企業、大学、自治体を巻き込み、「ご当地エイジウェル」を作っていく。
私たちはそのためのノウハウ提供や、全体プロデュースを担います。新聞社同士が連携して、成功事例を共有し合うようなネットワークも作れたら面白いですね。
社会的インパクトと未来像
―エイジズムのない社会実現に向け、メディアが果たすべき役割とは。
メディアには「言葉の選び方」から変えていってほしいです。
例えば、「高齢者」、「老人」という言葉。これらを使わず、もっと多様な表現があっていいはずです。結局いまは、シニアという包括的な言い方に落ち着いているのですが、他の表現を探していきたいです。
またシニアを主語にする時、どうしても「~してあげる」、「~支援」という言葉がセットになりがちですが、これを「~と共に」「~と創る」に変えるだけでも、意識は大きく変わります。
私たちは「エイジウェルデザインアワード」という表彰制度を設けています。そこではシニア自身が審査員となり、自分たちが本当に欲しい商品やサービスを選びます。
このように、シニアが主体となって発信する場をメディアがもっと増やしていくことで、「シニア=受動的な存在」というエイジズム(年齢に対する偏見)は解消されていくはずです。
―最後に、新聞業界への期待とメッセージをお願いします。
新聞業界の皆さんには、ご自身たちが持っている資産の価値に、もっと自信を持っていただきたいです。
購読者の高齢化は、ビジネス上の課題であると同時に、世界でも類を見ない「巨大なシニアプラットフォーム」を持っているという強みでもあります。
私たちのようなスタートアップからすれば、「新聞まわり」というのは、計り知れない宝の山です。ネットにもSNSにもないリアルな声が聞けるんですよ。
この資産を「守り」に使うのではなく、新しい社会を創るための「攻め」に使ってください。
シニアの方々は、自分の存在価値を認めてくれる場所、自分が必要とされる場所を求めています。新聞社や販売店が、そんな「居場所」になり、彼らの背中を押す存在になれば、日本のシニア市場はもっと活性化します。
「人生100年時代、長生きするのも悪くないな」。そう思える社会を、新聞業界の皆さんと一緒に、本気で実現したいと思っています。私たちのノウハウと、皆さんの信頼・ネットワークを掛け合わせれば、日本は必ず「世界一、歳を取るのが楽しみな国」になれます。一緒に新しい時代をデザインしていきましょう。
―本日は貴重なお話をありがとうございました。
(※)記事・写真提供:新聞情報社(取材・編集:岡田達也/撮影:小林温知)