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2025年9月8日 Age-Well Design Labプレスリリースお知らせ

医療×Age-Wellの挑戦 ― “治す場所”から“暮らしをデザインする場”へ〜 超高齢社会を生き抜く持続可能なモデルとは〜

孫世代の相棒サービス「もっとメイト」や多世代コミュニティスペース「モットバ!」を展開する株式会社AgeWellJapan(本社:東京都渋谷区、代表取締役社長:赤木円香、以下「AgeWellJapan」)は、株式会社Kitahara Medical Strategies International(本社:東京都八王子市、代表取締役:石橋千賀、以下「KMSI」)、医療法人社団KNI(本社:東京都八王子市、理事長:北原茂実)と連携し、北原グループに「Age-Well Designer」を試験的に導入し、モニタリングを開始しました。これを記念して、その背景や展望を語る特別対談を公開しました。


患者は病院を“選ぶ”時代へ

赤木:本日はよろしくお願いします。こちらの病院は、一般的な医療施設とは全く違った雰囲気で、驚きました。空間コンセプトについて教えてください。

石橋:創業者の北原は30年前から「医療は、よりよく生きて、よりよく死ぬまでをプロデュースする総合生活産業である」と提言していました。病気を治すだけでなく、人生そのものを支える存在であるべきだと。そこで私たちは、診療報酬の枠を超えて事業を展開できるよう、株式会社も設立しました。この病院は「病院をつくらない」というコンセプトで、手すりを減らし、ホテルのような空間にしています。レストランや温泉、動物と触れ合える場所もあり、患者さん「病人」ではなく「生活者」として過ごせる場を目指しました。

赤木:まさに「時代は変わった」という象徴です。仕組みとしては病院ですが、理念やコンセプトは従来と大きく異なりますよね。石橋さんご自身も、その考え方に共感されて北原グループに加わったと伺いました。最初の出会いはどのようなものだったのでしょうか。

石橋:私はもともと医療ソーシャルワーカーとして、患者さんやご家族の相談に乗り、退院後の生活や経済的な課題を支援していました。ですが、病院の中だけで関わっていると、入院前の暮らしや人生の背景がわからず、退院後に不安が残っていてもそこでご縁が切れてしまう。その限界にずっとモヤモヤしていました。

そんな時に北原グループが「入院前から退院後までシームレスに支援する仕組みをつくる」と打ち出したのです。その理念に共感し、私は現場から事業開発へと軸足を移しました。制度の枠を超え、生活者に寄り添う仕組みを一緒に実現できると感じたからです。

赤木:なるほど。医療制度の制約が強い中で、この考え方はかなり先見的だと思います。

石橋:ありがとうございます。ただ現実には、診療報酬はこの20年で約10%減少し、人件費や物価は上昇を続けています。特にリハビリは発症から180日を過ぎると医療保険が使えず、必要な方が制度の枠から外れてしまう。その限界の中で、医療者も「仕方がない」と受け止めざるを得ないのが現状です。

さらにコロナ禍を経て、市民の医療に対する意識も変わりました。「病院に行けば安心」ではなく「感染リスクがある」「予防や未病に取り組もう」という考え方が広がり、外来診療の売上は全体的に減少しました。患者が病院を“選ぶ”時代が到来しているのです。

赤木:確かに、これまで医療業界では「患者が病院を選ぶ」という発想はあまり強く意識されてこなかったと思います。制度の変化やコロナを経て、考え方が大きく変わりつつあるのですね。私自身、一生活者としては病院には「儲かっている」というイメージがありました。でも実際には多くの病院が赤字で苦しんでいると聞きます。

石橋:まさにそうです。病院経営はますます厳しく、今や競争と淘汰の時代に突入しています。だからこそ差別化が欠かせない。患者さんが信頼し、ファンになってくださるような病院でなければ生き残れません。北原が信じてきた「人生に寄り添う」という理念は、この時代の答え合わせになっていると感じますし、「挑戦と発見を通じてポジティブに歳を重ねる」Age-Wellの視点や取り組みは欠かせない存在だと思っています。

“治す専門家”から“人生の伴走者”へ ― スタッフの意識改革


赤木:社会全体で「ウェルビーイング」という考え方が広がっていますよね。これまでは体の健康が最優先でしたが、今は心の健康や人とのつながりが生きがいにつながると考えられるようになりました。北原グループも創業当初から「よりよく生きる」をミッションに掲げていて、「治す」ではなく「生きる」を軸にしているのは大きな特徴だと思います。最近のウェルビーイングのトレンドをどう捉えていますか。

石橋:医療者は病と向き合うことには長けていますが、人生そのものと向き合うことは必ずしも得意ではありません。でも世界的な流れとして、人の幸せそのものに向き合わなければならない時代になっています。私たちも背中を押されているような感覚がありますね。

グループで大事にしているのは「自己決定」「自己実現」、そして「言い訳をしない」ことです。患者さんは「この病気だから仕方ない」「この年齢だからできない」と口にすることがあります。そうなると、その瞬間に自己実現のスタート地点が狭まってしまうので、私たちはそこを支えることを大切にしています。

赤木:AgeWellJapanも同じ意識を持っています。私たちは約1年前に「シニアのウェルビーイング」という言葉に加えて、「エイジズムのない社会=Age-Well」と語るようになりました。「もう年だから」と諦める気持ちや、年齢で決めつける社会の目をなくすことがAge-Wellの本質だと考えています。そのために世代間交流やポジティブな自己認識を起点とするサイクルを提唱しています。

石橋:病気になると誰でも一時的に自己肯定感は下がります。身体的な回復だけでは不十分で、自尊心を回復させる関わりがなければ、本当の意味での幸せにはつながらない。残念ながらそこに目を向けていない病院は多いのが現実です。だからこそ、そこをしっかり見られる病院であること自体が差別化になると考えています。

赤木:まさにそこです。Age-Well のサイクルでは「ポジティブな自己認識」を出発点に置いています。数値的に回復しても、本人が「自分は良くなった」と認識できなければ意味がありません。医療の現場でそこを重視していただけるのは本当に心強いです。

医療職の方々は、高い技術を持つ“職人”のような存在で尊敬していますが、そこに寄り添いや関わりの視点が加わると、さらに新しい価値が生まれると考えています。だからこそ、私たちは「Age-Well Designer」という新しい職種を作りました。介護職や看護職の枠に収まらない、人生に寄り添う役割を担う人材です。専門職の方々がその視点を取り入れてくださるのは、とてもありがたく、希望を感じています。

“コミュニケーション”が医療を変える ― Age-Well導入の現場

赤木:実際に現場で導入してみて、印象的な変化があれば教えてください。

石橋:リハビリの現場では、これまで「病気を治して退院させる」ことがゴールになりがちでした。ですがAge-Wellの視点で「一人の人として向き合う」関わりを意識すると、患者さんが前向きになり、回復スピードが上がり退院が早まるケースも出ています。事例も着実に増えてきました。今後は、Age-Wellな関わりをした患者さんとそうでない患者さんで回復の差を定量的に検証したいと考えています。また、研修を受けたスタッフとそうでないスタッフの自己肯定感や社会貢献感の違いもデータで可視化していきたいです。

赤木:患者さんの変化もそうですが、スタッフ側のやりがいも重要ですよね。実際、私たちがパーソルと一緒に働きがいの調査をしたとき、Age-Well Designerの研修を受けた人は「仕事を通じてやりがいを感じる」と答えた割合が100%でした。誰かに「ありがとう」と言われる実感が増えることで、この業界に参画したいと思う若い人がもっと増えてほしいなと思っています。

石橋:本来、医療者は感謝される仕事のはずですが、現場は忙しく、離職率も高い。やりがいを見失ってドロップアウトする人も多いです。私は、病気を治すことだけでなく「患者さんの人生としっかり向き合い、感謝やつながりを実感できる」ことが、スタッフの社会貢献感を高めるのだと思っています。

赤木:9月に開催される「Age-Well Design Award」もそうですが、発表の場があり、振り返る機会があるからこそ、自分の関わりを誇れるようになりますよね。私たちも共感や称賛のムーブメントを広げるために毎年カンファレンスを開いています。そうしないと「よかったね」で終わってしまう。やりがいがあっても心が折れてしまうこともあるので、可視化して称賛する仕組みは本当に大切だと感じます。

石橋:そうですよね。一見するとAge-Wellの視点は「ただのコミュニケーション」に見えるかもしれませんが、実際にやってみると患者さんもスタッフも大きく変わる。それを見せていくことが重要だと思います。だから私たちも医療系の学会で発表したり、カンファレンスで共有したりしていきたいと考えています。

赤木:手術ロボットや手技の進歩のように派手ではないけれど、人との関わりを変えること自体が大きなイノベーションですよね。AI時代になっても、目の前の人との信頼関係を築く力は決して代替できません。

石橋:その通りだと思います。人にしかできない価値をデータでも示していくことが、これからますます重要になってくるはずです。

持続可能な医療へ ― 地域を支える“次の一手”

赤木:最後に、今後の展望についてメッセージをお願いします。

石橋:まずは、Age-Wellの視点を持つ医療者を増やすことが重要だと思います。病院の中だけを見るのではなく、生活者の視点に立つことで、事業の広がりも考えられるようになります。北原グループとしては、病院にとどまらず人生の最後まで寄り添うプラットフォームを強化したい。診療報酬に頼らず、地域とともに持続可能な経営を築くことが、市民にとっても病院にとっても幸せにつながると考えています。

赤木:未病や予防から関わり、いざという時に選ばれ、治療後も最後まで伴走する。病院は「病気になったら行く場所」ではなく、地域に溶け込み、人と人をつなぐ存在にもなれると思います。極端に言えば、北原グループが郵便局やアイスクリーム屋をやったっていいわけですよね。そうしたあり方の先に、患者さん本人だけでなく、ご家族や地域社会にも波及するインパクトがあり、医療に限らず介護や他分野にも広がる新しいエコシステムになり得ると感じます。

石橋:そうですね。医療はイノベーションが起こりにくい業界だからこそ、そこで変革を実現する意義がある。北原グループとAgeWellJapanの挑戦が、医療だけでなく社会全体の変化につながると信じています。