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2024年2月7日 AgeWellJapan Lab

【事業者の傾聴インタビュー_vol.5】Age-Wellなシニア生涯現役時代への第一歩。シニア雇用に挑む栗田氏の挑戦

  AgeWellJapan Labでは月に1回、挑戦と発見を通じてポジティブに歳を重ねる”Age-Well”を体現されている方、シニアの”Age-Well”な生き方を創る事業者へのインタビューをお届け。Age-Wellな生き方のヒントを発信していきます。

 Age-Wellな社会を作るため、顕在化されている課題の一つが、シニアが「自分が頼られている」と思える場所の少なさです。つまり、シニアが定年後にいきいきと働ける労働環境が足りていません。以前本インタビューにご協力いただいた、鎌倉でシニアが集うサロンを運営されている福井和子氏(リンク)も挙げていた問題です。

 「頼られている、とシニアが思える場所を作る」。取り組まなければならない問題であると同時に、実現までの道のりは長いです。そこで、今回は実際にシニアの雇用を作り出す取り組みをされている、株式会社デリモ代表取締役社長の栗田さんをお招きして、お話を伺いました。栗田さんは、2015年に高齢者が働く場、地域との共有スペース「シェアダイニングサルーテ」を開業され、定年退職後のシニアがいきいきと働く場所を作り出しています。

「シニア」という言葉は無くしてしまっても良い

AgeWellJapan代表・赤木円香:本日はよろしくお願い致します。栗田さんは、定年退職後のシニアの雇用を、カフェという形で作られていますよね。まずは単刀直入に、なぜこのようなシニア事業を始めたのかお聞かせ頂きたいです。

株式会社デリモ代表・栗田美和子:私が経営する会社で定年を迎えるシニアを、ただ社会や家庭に”返す”だけではなく、彼らが挑戦できる環境を作り出すべきなのではないか、という思いで9年前に始めたのが、シェアダイニングサルーテというカフェです。このカフェでは、株式会社デリモで定年退職をした65歳以上の方をスタッフとして雇用し、カフェを運営しています。現在も平均年齢72歳のシニアがスタッフとして働いており、最高年齢は81歳です。シェアダイニングサルーテを始めたことで、親会社(株式会社デリモ)でのシニア雇用意識にも変化があり、このカフェをきっかけに親会社でも70歳を超えて働く人が見られるようになりました。

 それと、これからの時代「シニア」という言葉は無くしてしまっていいんじゃないか、と思っているんです。

赤木:その話、詳しくお聞きしたいです!

栗田:今は「シニア=65歳以上」と定義されていますが、一般的には、日々活動していれば75歳でも元気な生活を送る人が多いです。もちろん、90歳近くになって元気な人もいます。言葉が与えてしまうイメージや生じる問題を考えると、既存のシニア・高齢者といった言葉を全て捨て、例えば、「シニアは85歳以上のことを指す」と再定義してしまっても良いと思うんです。80歳を過ぎても現役で活躍している社長もいれば、政治家もいる。シニアが元気に活躍する社会を作るためには、シニア・高齢者というという概念からの変革を、国レベルで考えていかなければならないと感じています。

赤木:2025年には団塊世代が75歳を迎えるなど高齢化がさらに進む中、シニアDX化の不完全さや医療費の負担問題などの課題も同時にあると思います。こうした中で、ニューノーマルの超高齢社会を迎えるために、私たちがやるべきことは何だと考えますか?

栗田:超高齢社会を迎えるためには、地域全体の視点から次の世代を作っていくことが必要だと考えています。若い人たちが「子育てをしたい」と思えるような町づくりが大切です。若い世代が子どもを生むか選択する際に考えることが、「自分が親に適しているかどうか」といった悩みで諦めるのではなく、「次の後身を育てる立場になりたい、この地域をなんとかしたい」と思えることが理想です。そんな若い世代の気持ちを作り出すことを、まず私たちはしていかなければならないと思っています。

赤木:社会を俯瞰して捉えると、高齢化と少子化は切り離せない関係にありますよね。少子化対策や子育て支援の課題の一つに人手不足が挙げられると思うのですが、「子育て人材が不足している場所」と「頼られる場を求めているシニア」のマッチングを行う上での課題は何でしょうか?

栗田:最近、Iターンと呼ばれる、出身地ではない地方への移住が増えていますよね。特に若い人たちが地方へ移住する人が多いなど、子育て支援でも新しい風が生まれています。そのような変化している環境で気になるのは価値観の違いです。今の子どもや教育の感覚は昔とは変化していて、以前よりも多様な子どもがいます。例えば「子どもを見守る」という仕事をシニアが担う際、世代や価値観の違うシニアがその変化に対応できるかどうかは課題の一つとして生じると思うんです。かつてのような子どものダメなところを叱ったり時に切り捨てたりする教育ではなく、個性としてどう伸ばすかが問われる教育の時代ですから。

赤木:ありがとうございます。栗田さんはAge-Wellの概念を地域のレベルで俯瞰して考えていらっしゃいますよね。Age-Wellな超高齢社会の実現を、個人単位のミクロな視点だけではなく、地域や社会といった単位のマクロな視点で捉えることの重要性を実感しました。

シニア雇用の課題点ー個性として捉える

赤木:シニアを実際に雇用として活かして全世代がAge-Wellに生きる社会を作ることには難しさも伴うのではないでしょうか。実際にカフェを運営してみて栗田さんが感じる、シニアの雇用の課題点を教えてください。

栗田:シニアを雇用する際には、体力的にどうしても健康で若い世代と同じだけの働きができないこともある、という問題が浮上してくると思います。身体的な問題もあれば、集中力が落ちてきている人もいる。認知症が始まってくる人もいるかもしれない。ただ雇用をするだけではなく、経営者としてはそうした課題が浮上する可能性を見込んで、どう対応するのか考えておくことが大切だと思います。

赤木:Age-Wellの定義の一つには「体や脳の衰えを受け入れ、ポジティブ変換しようと意識している」というものがあります。おっしゃる通り、体や脳の衰えはシニア問題を考える上で重要ですよね。

栗田:脳の委縮や手足が思うように動かなくなることなど、加齢に伴う身体能力の低下は、「個性」と同じように捉えるのが良いのではないかと思っています。例えば、人の名前が思い出せなくなってしまうことがあると「年齢の影響なのかな」とネガティブに思ってしまいがちですが、こうした変化も年齢と共に起こる「個性」であると考えると、また違う姿が見えてくるんじゃないでしょうか。
 ただ、考えておきたいのが、年齢に伴うどんな変化も、仕事をして誰かに頼られているという実感を得ることで、いつのまにか元気を取り戻したり、老いを進行するスピードを遅くさせることはあると思います。

この会社に本当に好きで入ってくれた人が一人でもいる限り、努力をし続ける。

赤木:課題感がたくさん見える世の中で、これからのニューノーマルな超高齢社会を前に、私達はどのような姿勢で取り組んでいくべきなのでしょうか。

栗田:どんなことも、「ダメ元でいい。失敗したっていいじゃない。やらないよりはやってみたらいいじゃない。」という気持ちで挑んでいきましょう。もしかしたら花が咲くかもしれないし芽が出るかもしれません。うまく行かなくても、その取り組みが若い世代に伝わり、彼らがやる気になってくれる可能性もあると思っています。
 そのために必要なことは、まず「事業のあるべき姿」が何なのかを考えていくことです。みんなそれぞれ「自分たちがいたい社会像」を持っているんだと思うんです。大事なのはそれをどう作っていくか。そして、作りたい社会に向けて、一緒に手を動かしてくれる人を探すことが大切なんだと思います。例えば円香さんだと、シニアの人たちが元気に活動している姿を日本中に発信して、シニアってこんなに元気なんだと思えるような社会/事業になりたいなどがありますよね。 

赤木:ありがとうございます。栗田さんご自身としては、どんな理想像を思い描いているのでしょうか?

栗田:私は、埼玉県を「オンリーワン埼玉県にしたい」と思っています。人口が減っていく県ではなく、増やしたい。増えることによって行政はもっと活発化する。このことを色々なところで声をあげ、埼玉大学の学長等色々な人を巻き込んだりいろんな人を巻き込んで進んでいきます。
 ただ、進めていくとできることの限界にどうしてもぶつかって来てしまうと思います。その中で、現在のターゲット・あるべき姿は何なのかを決めながら周りと進んでいく。ただ、その中で法律は守る。でも、法律は変えることを努力する。合わなければ、声を上げ続けたら、変わるかもしれない。例えば、今回「103万問題(注:年収が103万円を超えると扶養控除を抜ける必要があるため、雇用を調整するパートタイム労働者が多い問題)」がやっと浮上してきて、国会で討論されているじゃないですか。何年間か言い続けてきたことでやっと動き出してくることもありますから。

赤木:これまで、高齢化社会の問題からシニアの雇用問題まで多角的な観点で語って下さりましたが、栗田さんを動かす原動力は何でしょうか?

栗田:結局、自分の会社の従業員のために動いているのだと思います。私が従業員に対して約束したことは守らなきゃいけないし、従業員の生活を守ることが第一です。この会社に本当に好きで入ってくれた人が一人でもいる限り、本当に好きでいてもらえる会社であり続ける努力をする。この会社を潰さないためにはどうしたらいいんだ、従業員に誇りを持ち続けてもらえる会社にするには何をするべきなのかを考え続けたことで、社会や地域の視点にも行きつくようになったのだと思います。
 そして、利己心を捨てていかに利他的になれるかも重要です。かつて、渋沢栄一やYKKの吉田忠雄さん等、日本の歴史の中で名を残してきた偉人は、若い時から利他的に活動をしてきています。ただ、先頭に立つことで嫌われてしまうこともあると思うんです。彼らも、取りたくない決断に迫られたこともあったと思います。
 これは経営をする時も同じです。今の社会環境で取らなきゃいけない決断もあると思います。その時にビジョンを見据えて利他心を忘れずに、正しい選択を取れるかどうかが大事だと感じています。

赤木:シニア事業の課題から経営者の鏡のようなお言葉までいただき、非常に貴重な時間となりました。本日はありがとうございました。

取材後記

シニアの雇用が社会的な課題となるなか、栗田さんが先進的に取り組んでいるお話を伺うことができて、大変有意義なひと時でした。課題に直面しながらも、栗田さんはその解決に向けて果敢に挑戦し、利他心と愛をエネルギーに経営者として視座を高く多様な社会課題に目を向けながら取り組んでいらっしゃる姿勢からは、多くのことを学ぶことができました。Age-Wellな社会を作るためには、地域や行政を含めた様々なステークホルダーを巻き込んで変えていくことが必要だと改めて実感し、今後もラボを中心に取り組みを広げていきたいと感じています。本日は貴重なお話をありがとうございました。(赤木)

(インタビュー:赤木円香 編集:荒生真優)