2023年12月14日
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【事業者の傾聴インタビュー_vol.3】シニアが自身の知識を還元できる、”Age-Wellな場”を作る / KAZU LIVING SALON・福井和子氏
AgeWellJapan Labでは月に1回、挑戦と発見を通じてポジティブに歳を重ねる”Age-Well”を体現されている方、シニアの”Age-Well”な生き方を創る事業者へのインタビューをお届け。Age-Wellな生き方のヒントを発信していきます。
今回は、鎌倉でKAZU LIVING SALONを運営する福井和子氏にインタビュー。シニアが集う会員制のサロンを開き、多岐なジャンルを豊かに学ぶ、先生も生徒もシニアの教室・交流の場を開催しています。
自身の父に関する経験から、リタイア後のシニアが活躍する場所が少ないことに問題意識を抱いてきた福井さん。”Age-Well”な生き方を創出する場でもあるサロンの活動内容から、根底にある価値観まで迫ります。
リタイア後のシニアの知識が循環する場を作る
AgeWellJapan代表・赤木円香(以下、赤木):本日はよろしくお願いいたします。福井さんは鎌倉で現役引退後のシニアがスキルを互いに交換する場づくりを行っていらっしゃいますよね。彩り豊かな食事と共に活発に会話が交わされるあたたかい雰囲気の印象です。KAZU LIVING SALONでの活動内容について具体的にお聞かせいただけますか?
福井和子さん(以下、福井):「リタイアした後のシニアの知識を、世の中にもっと還元しよう」という趣旨の会員制サロンです。月に1回、海外の事情に詳しい方、PCがお得意な方、人工知能のお話ができる方、元開業医のドクター、元銀行員など、様々なバックグラウンドを持つ人が10~15人集まり、その日のテーマを決めて、おいしい料理やお酒を囲みながら会話を交わします。例えば、お金がテーマの場合、元銀行員の方が先生になってくれてパワーポイントを用いて説明をしてくれる、そうすると、老後の資金をどうするか、などの話がはずむ。アットホームな雰囲気で進んでいきます。
赤木:現役時代ご活躍されていた方々が集まり、本音も含めて情報を伝え合うのは、面白い取り組みですね。食事を楽しみながら、社会に還元している実感を得られる場所でもある。福井さんはどのようなきっかけでこのKAZU LIVING SALONを立ちあげようと思ったのですか?
福井:国家公務員として働いていた父が、退職した途端に生きている実感やワクワク感を失ったように見えたんです。そんな父を見ながら、現役の頃に頑張って仕事をしてきた人が、定年退職したら誰かの役に立てる場所がどこにも見当たらないことに問題意識を抱きました。もちろん、孫が来たり同級生と話したりと、楽しみがまったくないわけではありません。しかし、生きがいやWell-beingが十分に満たされている状態かと言えば、そうではない。だんだん輝きがなくなり、外へ出かけなくなる。すると、体も使わなくなるから、筋肉もなくなり、頭も使わなくなる。そんな父の姿を見て、このままじゃダメだと思ったんです。そこで、人のためになる活動ができるところに父を連れて行きました。幼稚園に行って絵本の読み聞かせをしたり、得意な習字を教えたりなど、外に出て活動をすると、誰かに感謝されるんですよね。「ありがとう」って言われると、やっぱり元気になります。社会に能動的に関われる場があれば、人は明らかに活き活きしてくるんです。そんな父との経験をもとに、「定年退職をしても社会の役に立てる場を作りたい」、と感じたのがきっかけです。
赤木:そうですよね。私も自分の祖父や年配の方々を見て、「会社の卒業=社会の卒業」になってしまう社会システムに対して疑問を抱いた経験があります。
福井:特に、高度経済成長期に猛烈に働いていた世代には、仕事一辺倒だった人も多くいました。だから、定年を迎えるとただ会社から放り出されてしまう。かと言って、シルバー人材センターで仕事を紹介してもらうのかというと、それまでとの仕事の違いが大きいからやりたくないって方もいらっしゃるんですよね。定年退職したあと、そこで培った知識や経験を活かせる場所は、いまの日本には会社以外には殆どないと思います。
「若い人にしかできない」ラベリングが存在する世の中を見て
赤木:福井さんのサロンは、まさに先ほどおっしゃっていたように「現役時代は生活のほとんどが仕事だった」という方が多いと思うのですが、実際、引退された後も社会との接点を持っている方はどのくらいいるのでしょうか?
福井:会社を卒業されても社会との接点を保っていらっしゃる方は体感3割ほどですかね。場がないことは、彼らにとっても気の毒ですし、高いスキルを持っている方が発揮せずにそのままいなくなってしまうのは、社会にとっても損失だと思います。元銀行員だったら、お金を預かって運用することに関してはプロの知識を持っている。他にも、コンピューター初期の時代に携わっていた方は、プログラミングにかなり長けていらっしゃるんですよね。その能力も、「プログラミングは若い人にしかできない」という先入観で封印されてしまうのは非常にもったいない。
赤木:そうですよね。日本では、「○○歳だからできないに決まっている」、というようなラベリングが目に見えない形で存在していますよね。引退した瞬間、「シニア」というレッテルが貼られてしまう。「男らしく」「女らしく」といった性差別と同じように、年齢差別=エイジズムにも着目していかなければならないと考えています。日本ではこのようにラベリングをする傾向が強いのではないかと感じています。
福井:まさしく、おっしゃる通りです。性別で言えば日本では「男は外で働くもの、女は家庭の中で子供を守るもの」とラベリングする価値観が未だ根強いと感じます。例えば北方などでは、男が子育てしようと、おんぶ紐で赤ちゃんを抱っこしようと、お母さんが外でバリバリ働こうと全然関係ない、というのが当たり前のことです。性別や年齢に囚われず、個人がどう幸せであるかが重要と考えられているのだと思います。
赤木:福井さんはラベリングや先入観を持つことに対する問題意識も今の活動をするきっかけになったのですか?
福井:はい、そうです。私自身も、子育てや介護がひと段落して起業しようという時に、当時の夫が反対をしたんです。性別や年代を理由に、新しいことをしよう、社会に貢献しようという意思表示が認められない。それはやはり当時の社会通念の影響を受けますから、世代による偏りもあると思います。でも時代も社会も変わっていく。自分も変わらなきゃ、とは思っているんだけれども、急には変われない。うちのサロンでも、古い価値観の発言も時折見られるのですが、性別や年齢によって個人が制限されることはないんだという意見を聞いて、「そうなんだ。」と聞いていらっしゃいますね。
活躍してきた方にもっと光をあてたい。福井さんの今後の展望
赤木:福井さんが描かれている今後の展望をお聞かせいただけますか?
福井:今のサロンだけにとどまらず、現役引退後のシニアがさらに社会に出ていくような仕組みを広げていきたいです。具体的には、お医者さんなどのスキルを持っているシニアと、ふんわりと健康に関して相談したいと思っている方などそのスキルがあれば豊かになる人を繋げる、会員制の出張サービスをしたいです。また、現在の60代は人数が多い世代なので、あと2、3年したら自身のスキルを社会に還元する場所のない方がいっぱい出てきてしまうのではないかと思います。そんな方々の行き場がないと困るので、シニアが活躍できる場所を作ることは大事です。しかも、戦後を経験し、今の平和な時代の礎を築いてくださった諸先輩方ですから。スキルを持った方々は世の中に沢山いらっしゃるので、世の中から去る前に持っている能力を残してほしいと思っています。
赤木:高度経済成長期を経験し、今の日本を作ってきた諸先輩方には本来なら感謝するべき社会でありたいと思うんです。一方で、メディアでフォーカスされてしまうのは”病院で当たり散らしたりするおじいさん”などの悪いイメージ。でも、そんな人ってほんのわずかにすぎないんですよね。
福井:そうですね。だから、活躍してきた方々にも光をあてないと、と思っています。輝いているシニアって実は世の中に沢山いるんですよ。だって、彼らは元気だから。そんな方をどんどん紹介していきたいですし、さらに場を作っていきたいです。
赤木:ぜひ、今後も協働しながら、Age-Wellな社会を作り上げていきましょう。
編集後記
福井さん、この度はありがとうございました。弊社では、今期のテーマを「エイジズム」とし、Age-Wellな社会の実現に向けて事業を運営しております。このタイミングで、福井さんがご自身の経験をもとに分かりやすく解説してくださったことで、理解を一歩進めることができました。年齢による差別、性別による差別、国籍による差別。社会に根付いているラベリングに対して、改めて課題提起をしていきたいです。今後ともエイジズムのない社会に向け、AgeWellJapan Labのネットワークを通して発信・議論・協働を積み重ねていきたいと思います。(赤木)
(編集・荒生真優)