2023年12月7日
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【事業者の傾聴インタビュー_vol.7】ウェルビーイングの気づきと対話から、Age-Well 実現のきっかけを生み出していく / 株式会社Three Fields Research・兵頭保之氏
Age-Well Design Labでは月に1回、挑戦と発見を通じてポジティブに歳を重ねる”Age-Well”を体現されている方、シニアの”Age-Well”な生き方を創る事業者へのインタビューをお届け。Age-Wellな生き方のヒントを発信していきます。
「誰もがしあわせを語れる世の中」を実現するー。今回お話を伺ったのは、人と組織に向けてウェルビーイングの気づきと対話の機会を提供する、株式会社Three Fields Research 取締役の兵頭保之氏。臨床心理学に基づいた「新たなカタチのウェルビーイングプログラム」『WELL-BEING CHECK Plus』の普及を通じて、あらゆる人の幸せの対話を支え、誰もが幸せを語ることができる社会を目指しています。
息子さんからの質問をきっかけに「自分にとっての幸せとは何か」を考えるようになったという兵頭氏。簡単なようで多くの人が詰まってしまう、この問いの答えを導き出すためのアプローチから、いかにして「Age-Well」をデザインしていくのかを考えます。
あらゆる人が自分の幸せを語れる機会をつくる
Age-Well Design Lab所長・辰巳裕亮(以下、辰巳):本日はよろしくお願いいたします。まずは、兵頭さんが取り組んでいらっしゃる事業内容についてお聞かせください。
株式会社Three Fields Research 代表・兵頭保之(以下、兵頭):現在は、企業や自治体、教育機関に向けて、人と組織におけるウェルビーイングの気づきと対話をもたらす研修プログラムの提供、ウェブアプリの開発を行っています。気づきと対話を通じて、一人ひとりのウェルビーイングの実現、すなわち、心と身体の良好な状態や幸せの実感を増やすことが、個人としてのQOLの向上、さらには組織としての人的資本の最大化と企業価値の継続的な向上に寄与すると考えています。
辰巳:組織においては一人ひとりのウェルビーイング実現が全体の価値向上に繋がる。まさしく、私自身が弊社の人材育成を行う中で感じてきたことです。兵頭さんはどのようなことがきっかけで、現在の活動を始められたのですか?
兵頭:きっかけは2つあります。1つは、当時保育園の年長だった息子から突然、「パパの幸せって何?」と聞かれたことです。おそらく保育園から出された課題だったと思うのですが、そう聞かれた私は固まってしまって、自分の幸せを言葉にすることができなかったんです。そのときの息子の表情といったら本当に何とも言えないもので、「え?自分の幸せが何か分からないの?ほんとに?」と驚いているようでした。そんな表情を見せられたら、父親として申し訳ない気持ちと、情けない気持ちになってしまって。だからこそ、幸せを自分の言葉で、さらっと楽しそうに語れる人間になりたいと思うようになりました。息子に「父親のイキイキとした姿を見せたい!」と、心の底から思ったんです。この経験が、自分も含め、ウェルビーイングの気づきと対話で人と組織の笑顔を増やしたいと考えるようになったきっかけですね。
それから2つ目、これは仕事の側面からです。私は8年前に東京から実家がある愛媛県にUターンしました。そのとき愛媛に戻ってから、ある事業会社で人事と経営のお手伝いをさせていただくようになったのですが、そこで直面したのが「深刻な人材不足」でした。とにかく、「いない」「採れない」「替えが効かない」状況だったんです。だからこそ、今いてくれている社員を大切にする必要があると感じました。今いる貴重な人材、一人ひとりの活躍が本当に大切なんですよ。切実です。そして、この現状にどう向き合っていくかを考える中で「心」に行き着いた。「スキル」と「経験」、仮にこの2つを基盤として、その基盤に「心の状態」を掛け合わせたものがパフォーマンスになるとした場合、どこにアプローチするべきかをずっと考えていたんです。その結果、よりブレのある変数であり、特に対策を打つ必要があると感じたのが「心の状態」でした。
そして、そのときにピンときたのが、息子とのあの苦い思い出、「幸せとは何か?」という問いだったんです。ウェルビーイングの気づきと対話を通じて、社員全員の心を安定させ、良い状態にすることができれば、貴重な人材、一人ひとりの活躍が増えることに繋がるかもしれない。「いない」「採れない」「替えが効かない」と諦めてしまうのではなく、ウェルビーイングによる人材・組織開発という新たな可能性に挑戦してみることで、この状況を打開しよう。そう考えるようになりました。そして実際に、気づきと対話を通じたウェルビーイングの実感を増やすための1on1を自ら社員全員と実施したんです。 そしたら、はっきりとした手応えがあって。そこに大きな可能性を感じて、ウェルビーイングの気づきと対話を生み出すプロダクトやサービスの開発とその提供を会社を興してでもやりたくなった。より多くの人と組織に提供してみたいと夢見るようになった。これが現在の活動を始めたきっかけであり、その想いは今も変わっていません。
ウェルビーイングの実感を生む、「対話」の可能性
辰巳:ミッションとして「あらゆる人のしあわせの対話を支える」ことを掲げられていますが、誰もが幸せを語ることができる社会づくりを行う中で、そもそもなぜ「対話」という切り口からの実現を考えられたのですか?
兵頭:「対話」であれば、フラットに真剣に語り合うことができると考えたからです。仕事における1on1コミュニケーションを例に上げると、どちらかと言えば、課題解決や目標達成といった志向が強いですよね。 そうなってしまうと、各々の役割や立場があるがゆえに話が広がりにくくなってしまう。一方で、ウェルビーイングや幸せといった普遍的なテーマであれば、役割や立場に囚われることなく、話を広げることができる。「対話」を通じて、自分自身や相手の価値観に対する理解を互いに深めていくことが、新たな人との出会いや仕事に繋がるかもしれない。その大きな可能性を「対話」は秘めてると思うんです。だからこそ、単なるコミュニケーションや雑談ではなく、「対話」という観点から、ウェルビーイングについて考えるようになりました。
辰巳:「対話」による自己認識ですね。弊社が掲げる「Age-Well」を実現するためのドライバーの1つに「自己認識」があるんです。シニアが若者との「対話」を通じて他者視点と自己視点を行き来する、そんな自己認識を創り上げるプロセスが重要であると結論付けているのですが、兵頭さんの取り組みにおいても「対話」による自己認識が鍵であると感じました。実際に『WELL-BEING CHECK Plus』が導入された企業では、どのように「対話」が実施されていくのでしょうか?
兵頭:導入されたら、まずは各々で診断を受け、その診断結果レポートをもとに「対話」を実施していきます。レポートには、自身のウェルビーイングに関する幸せや価値観、その満たされ具合が書かれているんです。実際の対話においては、「ここに書いてある○○の項目はどうですか?」といった具合で進めていきます。このようなプロセスを経て、自身の価値観や幸せを語っていくので、ウェルビーイングの話は難しくないですし、何より対話を続けられるんですよ。
私はスタートが重要だと考えます。診断結果レポートという自己認識の「前提」があるうえで、対話を実践することができる。前提なしに話を始めて、個人の価値観やプライベートを聞こうとすると、空気が変わってしまうじゃないですか。「この人、私のプライベートのことを聞こうとしてる」って。それを相手はすぐに察しますし、こちらとしても聞き方を少しでも間違えたらハラスメントになってしまう。そうなると、お互いに萎縮してしまうんです。ですが、対話のスタート時点で「今日はウェルビーイングの話なので、診断結果レポートを持ってきてください」から始まると、対話の空気は非常に和やかなものになりますね。
辰巳:「前提」としてある程度の自己認識ができている状態とそうでない状態とでは、対話を実施するにあたっての心持ちも大きく異なりますよね。実際にサービスを導入した企業には、どのような変化がありましたか?
兵頭:1番の大きな変化は、「上司と部下におけるコミュニケーションが双方向化した」ことです。社内1on1を実施する際によく言われるのは「上司がどのように部下から話を引き出すか」「上司がどのように時間をマネジメントするか」といったことで、上司側が研修やトレーニングを受講することが多いんです。とは言え、私は、1on1を受ける部下においても、話し手としての責任、努力が求められると思うんですよね。だから、部下も自分の現状やリクエストを語れるようになっている状態が理想です。そんな中で、弊社のサービスを利用していただくと、ある程度の自己理解を深めたうえで1on1に臨めるようになる。結果、上司主導の1on1ではなく、部下の方からも具体的なリクエストを話してくれるようになる。だから、上司も適切なアドバイスを返せるようになる。このような変化が多いようで、「1on1の1時間が有意義なものになった」といった、受ける側からのポジティブな声も増えてきました。
他にも、変化で言うと「生活の質」があります。仕事以外も含んだ「人生の質」。なぜなら、診断を受けて対話を実施する中で「自分の幸せ」を認識できるようになるから。家を買う、海外に住むといった大きい話だけではなく、朝いつもより少し早く起きる、窓を開けて新鮮な空気を吸うといった、人生における小さな幸せがリストに溜まっていくんです。これによって日常生活における幸せが可視化されていくからこそ、ウェルビーイングの実感が湧いてくる。最初に現れる変化としては、この「生活の質」を答えてくださる方も多いです。
異なる価値観との出会いが、新たな気づきに繋がる
辰巳:兵頭さんが思い描かれている今後の展望をお聞かせいただけますか?
兵頭:現在は、ToBサービスとしての拡張に取り組んでいますが、自社の経営計画におけるあるラインを超えることができたら、その後はToCサービスとしての展開を目指す予定です。その際には、世代を問わず、広く多くの皆さんにご利用いただけるサービスにしていきたいと考えています。気づきと対話が世代を超えて行われることの可能性について考えると、今の時点で既にワクワクが止まりません。
先ほどお伝えした『WELL-BEING CHECK Plus』では、その特徴の1つに、質問への回答を他の人も見られるということがあるんです。なので、自分の考えだけではなく、他の人の回答も見る中で「こういう幸せもいいな」「こういうウェルビーイングもいいな」と共有し合うことができます。これによって自分の幸せの解像度を高めていく、そういうメカニズムになっているんです。回答を共有し合う中で、シニア世代をはじめ、いろいろな世代の方が入ってくるとより面白くなると思うんですよね。
辰巳:確かにそうですよね。実際、弊社のAge-Well Designerが目を輝かせながらよく話してくれるのが、シニア世代との関わりを通じて「自分の人生観が変わった!」「将来のロールモデルに出会えた!」ということなんです。シニアがこれまで歩んできた長い人生で得てきた価値観に触れることで、自身の価値観に変化が起こる。反対に、シニアが若者から影響を受けることもあるんですよ。
兵頭:間違いなくあると思います。 自分の考えや価値観が誰かの気づき、前向きな変化に繋がって、それが自信や新たな発見に繋がる、こうした世代を超えた交流がお互いにとっての良い循環になりますよね。だからこそ、ToCでもいろいろな世代に広げていきたい。その流れの中でいつか、AgeWellJapanさんと一緒に活動できれば嬉しいです。
そして最終的に、地域や社会としてのウェルビーイングの気づきと対話が盛り上がれば、コスパだけでなく心が満たされるためのサービスや施策が世の中にもっと多く生まれ、脱成長としての新たな流れもさらに充実していくんじゃないかと思うんです。あくまで妄想ですが、 ウェルビーイングという出汁が効いた人、組織、地域、社会をイメージすると結構楽しそうですよね。そこまで到達できるように、これからも学びを続けていきたいと思っています。
辰巳:ぜひ一緒に取り組んでいきたいです。最後に、兵頭さんの考える「Age-Well」について教えてください。
兵頭:「Age-Well」を実現するにあたって要となるのは「気づき」と「対話」だと思うんです。対話を通じて自己認識が生まれ、その気づきと周囲からの少しの後押しが、新たな挑戦を支える。挑戦から得られた「fun」と「motto」が新しい世界観の発見に繋がり、それが活力となって、さらに充実した自己認識・挑戦・発見の循環を生む。これが、私の考えるAge-Wellな行動を生み出すメカニズムです。だからこそ感じるのは、一人ひとりが「自分の」ウェルビーイングに気づき、対話や行動を通じて、良い状態・幸せの実感を増やしていくことの大切さ。ポジティブなサイクルが再現性を持って生まれる仕組みを作り、持続性を持って広がっていく環境を整え続けることが社会のAge-Well デザインを支えるきっかけになると考えていますし、私自身もそのきっかけを創っていきたいです。
取材後記
『WELL-BEING CHECK Plus』が「気づき」と「対話」の起点となり、一人ひとりの「良い状態」「幸せの実感」を増やすことに繋がる。そしてアプリ上では、ユーザー自身が「何に幸せを感じるのか」可視化されていく。お話を伺って、ウェルビーイングの気づきと対話が秘めた、このポジティブなサイクルの可能性に私自身もワクワクしました。また、今回の取材を通じて私自身も改めて「幸せとは何か?」を考えてみたのですが、じっくり考えてみても言葉にするのは難しく「幸せ」の言語化ができていない自分に気づくことができました。その一方で、私たちがAge-Well Design Labのインタビューでお話を伺うAge-Wellなシニアの皆さんは、全員決まって「小さな幸せ」を見つけ、それに気づくことが得意な方々です。だからこそ思うのは、幸せを自ら掴んでいくためにその解像度を高めておくことの重要性。自身のウェルビーイングに気づき、誰もが幸せを語ることができる社会では、人々が挑戦と発見を通じてポジティブに歳を重ねることができると信じています。今後『WELL-BEING CHECK Plus』が社会に広まっていくことが楽しみでなりません。
(インタビュー:辰巳裕亮 編集:村田凜)