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2023年11月28日 AgeWellJapan Lab

AgeWellJapanカンファレンスレポート「Age-Well Innovation~社会・事業変革における意味を考える〜」

本記事は、10月13日に開催されたAge Well Japan 2023 のカンファレンスで最後を飾ったセッションプログラム、「Age-Well Innovation~社会・事業変革における意味を考える〜」のレポートです。
人類が未だかつて経験したことのない超高齢社会の到来、そして未曽有の社会変化の中で人はいかに生きるべきか、変化に応じた新しい価値・社会をどう創造するのか。当セッションは、カンファレンスの総括に代え、「Age-Wellという価値観の誕生」がこれからの社会・事業変革においてどのような意味を持つのかを共に考えていくものでした。

プロフィール

奥谷孝司氏 株式会社 顧客時間 共同CEO / 取締役

1997年良品計画入社。店舗勤務や取引先商社への出向(ドイツ勤務)、World MUJI企画、企画デザイン室などを経て、2005年衣料雑貨のカテゴリーマネージャーとして「足なり直角靴下」を開発して定番ヒット商品に育てる。2010年WEB事業部長に就き、「MUJI passport」をプロデュース。 2015年10月にオイシックス・ラ・大地に入社し、専門役員/COCO(チーフ・オムニ・チャネル・オフィサー)に就く。 2017年にEngagement Commerce Labを設立。 2018年に顧客時間共同CEOに就く。 2020年からLazuli株式会社顧問。

岩井琢磨氏 株式会社 顧客時間 共同CEO / 代表取締役

1993年博報堂DYグループ入社。インストア・プランナー、クリエイティブ・ディレクターを経てブランドコンサルタント。ダイエー再生プロジェクトに参画。2012年にコーポレート・コミュニケーション・センターのセンター長に就く。製造業、サービス業界を中心に、部署横断型の事業変革プロジェクト、企業ブランディングおよび企業コミュニケーション設計プロジェクトを数多く手がける。2018年に顧客時間を設立し、共同CEO代表取締役に就く。

「Age-Well」という新たな価値観がもたらすもの

岩井)「Age-Well(エイジウェル)」という言葉は本日、何度も登場していますが、改めて皆さんと噛みしめたいと思います。これは「ポジティブに歳を重ねる」という意味に加え、「挑戦と発見を通じてポジティブに歳を重ねる」という動詞でもあります。”I Age-Well.” ”You Age-Well.” のように、名詞ではなく動詞。つまり、ポジティブに動的に歳を重ねるという考え方を指しています。非常に良い言葉だと思います。

奥谷)私がここにいる理由も、ご高齢の方によりよく生きてほしいと思っているのと同時に、私が今、この状態で「Age-Well」でなければならないと思っているからです。そういった意味でも全員に通じる非常に普遍的なテーマが「Age-Well」だということ。「挑戦」と「発見」は、20代もすれば、70代・80代もするべきだということです。

岩井)そうですね。「Age-Well」という言葉は、行動である「挑戦」が最初に来て、発見がその後にあります。まず「自ら動的な行動を生む価値観」が「Age-Well」という言葉に込められているのです。

そして本日は、「Age-Well」がどのように「イノベーション」に繋がるかを一緒に考えていきますが、お話しする内容は大きく4つあります。まず「Age-Well」から少し離れますが、「イノベーションとはそもそも何なのか」ということです。なんとなく「イノベーション」と言いますし、「Age-Wellはイノベーションですね」というと聞こえは良いですが、実際のところ何なのかを考えます。そして今回は、それを形作る要素として、3つの「Age」を皆さんと考え、再定義したいと思います。その1つは「Age-Ism(エイジズム)」です。「Age-Ism」という言葉を聞いたことがある方はいらっしゃいますか。

奥谷)結構いらっしゃるんじゃないですか。

岩井)でも、まだ少ないですね。もう1つは「Age-Tech(エイジテック)」です。そして本日のテーマ「Age-Well」。これらがどのような関係にあるかを考えることによって、ここまでご登壇された方の事業やこれからのチャンス、市場をイノベーションの観点で見ようというのが本日の趣旨になります。では、まず「イノベーション」からいきましょう。「イノベーション」という言葉については、皆さんはもうしつこいくらい聞いてらっしゃいますよね。

奥谷)この言葉、カタカナで言われるので最近の言葉に聞こえますが、岩井さんがこの言葉を『経済白書』の中で見つけたんです。この本はいつ出版されたのでしたっけ。

岩井)昭和31年、1956年に出版されたものです。ここに「イノベーション」という言葉が出ています。「もはや『戦後』ではない。」というあの有名な言葉が出た、戦後の復興が終わったタイミングですね。

奥谷)逆に言うと、こういう言葉は昔からあったわけですね。でも、時代の変化とともに、言葉の意味も意義も価値も変わっているのではないか、ということですね。

岩井)そうですね。当時、この『経済白書』の中で大きく注目されていたのが、「オートメーション」と「原子力」だったのです。新しい技術であったことから「イノベーション」を「技術革新」という言葉で訳した最初の書物ですね。これによって「イノベーション」は「新しい技術を作ることである」という認識が強まったのだと思います。では果たして「技術ができればイノベーションなのか」、もちろん様々な研究がありますが、「実はそうではない」というのが現在言われているところです。

顧客の「行動」を変えるイノベーション

岩井)ここで1つ例を挙げて考えたいのですが、左側の写真の「セグウェイ」はご存知ですか。二輪車ですが、「ジャイロセンサー」が付いているので倒れることはなく、体重を傾けた方向に進みます。発明された当時は「非常にイノベーションだ」と言われたのですが、一昨年に生産は終了してしまいました。

奥谷)今は街中にLUUPは走っていますが、セグウェイで人が移動することはなかったということですよね。

岩井)そうですね。対して右側の写真は「ルンバ」というロボット掃除機なのですが、この2つ、どちらがイノベーションか、ということです。

奥谷)テクノロジー的には圧倒的に左でしょうか。

岩井)圧倒的ですね。しかし、「新しい技術」という意味では「非常にイノベイティブだ」と言われたのに、結果的に現在は生産終了しているのです。セグウェイは、都市内移動の新しい手段として発表されたものの、これで人々が都市内を移動することはなかった。つまり、顧客が動かなかったのです。技術は素晴らしかったのに、顧客は動かなかった。セグウェイ市場は大きくならなかったということです。一方で、右側のルンバ。現在は「ルンバブル」というルンバが入るように下に空間があいた家具をわざわざ揃える現象が起こっています。ルンバは完全に生活を変えたのです。どのぐらい普及してるかというよりは、一度ルンバを使った人は、あまり元の生活に戻らなくなりました。そして、掃除は家を留守にしてる間にするものという習慣になりました。技術云々ということは比較が難しいですが、大事なのは「顧客の行動が変わった」ということです。つまり、これが「イノベーション」。世の中が変わっていく、その仕組みの中で最終的に顧客の行動が変わりました。早稲田大学名誉教授である内田和成先生が2022年に編著した「イノベーションの競争戦略」(岩井共著)にその定義が出ています。

奥谷
)つまり「イノベーション」は、お客さんの「行動」が変わるかどうかなのですね。我々が今後イノベーションを起こすにあたって重要なのは、顧客のアクションがあるか、アクティベーションするかということですね。

変革を引き起こす3つのドライバー「イノベーションのトライアングル」

岩井)そして内田先生の本には、お客様の行動が変わる、顧客の行動が変わる、世の中の人々の行動が変わるときに、どのようなドライバーが作用するかについても書かれており、そこには大きく3つのドライバーがあると言われています。

1つは社会構造。例えば人口動態で、本日のお話で言うとまさに超高齢社会は社会構造の1つです。もう1つは技術革新。そして、技術革新によって結果的に心理変化が起こる。これは顧客・世の中の人々の心理変化で、人々の心理が変われば、また社会構造が変わっていくという流れです。これに先ほどの言葉を当てはめると、次のようになります。

岩井)1つは「Age-Ism」。「Age-Ism」はこの後お話ししますが、年齢による差別のことです。「歳を取ってからこういうことを始めるのは恥ずかしい」みたいなものは、まさに「Age-Ism」で、個人の感情や考え方が抑制されてる状態です。もう1つは「Age-Tech」。それから「Age-Well」。「Age-Well」はこの左側の心理変化、つまり、価値観、心理を示す言葉だということです。

奥谷)お客様の中から生まれてくるものですね。

岩井)この関係性で今何が起きてるかを考えると、1つ目が社会構造としての「Age-Ism」です。高齢化している、高齢社会になっている、超高齢社会になっている。これはどちらかというと構造というよりも背景であり、その中で起きている課題が「Age-Ism」です。

奥谷)私も全然知らなかった言葉ですが、1970年ごろの自分のおじいちゃんおばあちゃんを見ていると、まさに「Age-Ism」で「歳を取ったから農作業はやめなさい」と言われていました。「歳を取ってはしたない」、そんなものもありましたね。

岩井)「いい歳をして」というのは、ある意味、「Age-Ism」ですね。これはステレオタイプ(固定観念)の1つです。差別や偏見はほとんどそうだと思いますが、人間を「あなたはこういう歳だから」、「性別がこうだから」、「人種がこうだから」ということで、ステレオタイプに当てはめるものです。「Age-Ism」はその年齢版です。

奥谷)「性差別」みたいな意味ですか。

岩井)おっしゃる通りで、グローバルでは「年齢差別」は「人種差別」、「性差別」と並ぶ世界の三大差別とされています。ではなぜ今、「Age-Ism」が注目されているのかというと、「超高齢社会」になったから。逆に、高齢の方々が増える状況の中で「年齢差別」という社会全体の構造を左右するような意識が問題として再度注目されているのです。

奥谷)日本のようにこれだけ高齢化が進んでるのに、この言葉を私たちはあまり知らないことは、反省するべきですよね。

岩井)ちょうど先月に放送されたNHKの「おはよう日本」では「エイジズムを知っていますか」という特集がありましたが、多くの人は知らないという状況でした。また、昨年にはTBSのニュースで「29歳ハラスメント」という特集もありました。

奥谷)これも「エイジズム」ですよね。

岩井)「29歳になったのだから結婚はどうなのか」と言われてしまうことです。ただ、ニュースの中で「エイジズム」の言葉自体は出て来ないので、まだ認識されていないということですね。

奥谷)この辺りはメディアも含め、「こうでなければならない」という社会的な規範や文化に紛れ込みながら、潜在的に存在しているのが「エイジズム」ですね。なので、高齢者の方に限ったことではない。

岩井)色々な年代の方に「エイジズム」は関係するということです。そして年齢によるステレオタイプは昔から変わらず、どの時代にも存在しています。しかしそんな固定観念に抗ったのが、私が尊敬するダーセル15世というポートランドのドラァグクイーンの方です。今年92歳で亡くなられました。

奥谷) つまり「セクシズム」と「エイジズム」の 両方に抗っていた方ですね。

岩井)そうです。「幸せは、ありのままの自分として生きているかどうかと大きな関係がある」とおっしゃられていますが、まさにこのことです。「社会がそうだから、自分もそうせねばならない」という「社会の規範」は、必ず「自己抑圧」を起こす。これはまさに「Age-Well」の反対の言葉だと思います。

「人的技能」がAge-Wellの価値観をかたち創る

岩井)では、固定観念を変えていくときに技術は何ができるのかを考えてみたいと思います。

奥谷)「テクノロジー」と一口に言っても、医学的なもの、オートメーションなど、色々な技術があると思います。

岩井)「Age-Tech」という言葉は、皆さんよく聞かれる言葉だと思いますが、厳密な定義はないようです。本日のセッションでも非常に優れたAge-Techの事例がありましたが、「Age-Tech」で著名な研究者、ケレン・エトキンの言葉に「高齢者に関わる人々のために作られたテクノロジーはすべてAge-Techだ」というものがあります。「Age-Tech」と聞くと、どうしてもヒューマノイドや介護ロボットなど、テックが強調されたものを思い浮かべがちですが、そうではなく、もっと幅広い意味で「Age-Tech」は捉えられるようです。これを見たときに我々が思い出すのは、こちらですね。

奥谷)徳島県の上勝町にある、「いろどり」という会社です。実はこのビジネス、私が今所属しているオイシックスという会社で、おせちを作る際にお手伝いいただいています。料亭や我々のおせちに入れてもらうための葉っぱを栽培し、採って送ってくださるのですが、ここには実は「テクノロジー」が満載なんですね。

岩井)普段はご自身で農業をされている70〜80代の方々が中心となって、iPadを使って需要を確認し、需要に合わせて葉っぱを出荷しています。そうすることで日持ちしない葉っぱの市場価格と市場価値を守ることが実践されているのです。

奥谷)「戻るボタン」など、アプリのユーザーインターフェースをすごくわかりやすくして、高齢の方が、技術を積極的に使えるようになって、彼らもハッピーなわけです。これも「Age-Tech」ですね。つまり、最先端のテクノロジーと未来を見せなければ「Age-Tech」ではないかというと、そんなことは全くない。テクノロジーというのは、先ほどの通り、行動を生み出さなくてはいけない。内田先生がおっしゃってるように、人とテクノロジーがインタラクティブに噛み合わないと、「Age-Tech」にはならず、心温まるものにならないですね。そこが非常に重要なのです。「いろどり」は技術レベルはそんなに高くないものの、これをやることで過疎の町である上勝町が、高齢者の方々の手によってビジネスになる。そして、そこに本物のビジネスが生まれる。それをずっと続けようとなるわけです。

岩井)もう1つ、我々から提言したいのは「テック」の中には「人的技能」も含まれるということです。先ほどの「いろどり」さんでいうiPadやその中のアプリが技術に当たるわけですが、それ以上にそれらをビジネスとして創り上げること、それも大きなテクノロジー、技術です。元々、「テック」「テクノロジー」という言葉の語源は古代ギリシャ語の「テクネー」で、その中には人の技術も含まれています。要するに、科学技術だけがテクノロジーではなく、「テクニック」も入るということです。それゆえ、「Age-Tech」の中にも、この「人的技能」が入るのではないでしょうか。

奥谷)このポイントがまさにヒューマンタッチテクノロジーであり、今回ご登壇された皆さんはこれに近いことやられていたのですね。サービス申し込みはインターネット上で行うが、その裏にはサービスを提供する高齢者、もしくはサービスを提供するプロフェッショナルがいて、この組み合わせによって初めて真の「Age-Tech」になるのではないでしょうか。

岩井)そう考えると、本日ご登壇されたババラボさんの場を運営する技術、もっとメイトのシニアと対話し傾聴する技術、これも「テック」と考えるべきだと思います。

奥谷)人的なテクノロジーですね。

岩井)技術、テクノロジーが普及するだけではなく、それを運用する人々の技術がなければ、Age-Wellな社会には近づかない。サービスという部分に関しても、テックという言葉が使えるということですね。このような「テクノロジー」、あるいは「テクニック」がどんどん使われていくと、サービスを提供する事業者が成長し、結果的に顧客はそこに触れ、さらに、触れる人が増えていきます。その繰り返しによって、先ほどの「Age-Ism」、「この年齢だから諦めよう」という考え方は打破されていくということです。そして、「Age-Well」な価値観というものが心理変化として起こるということです。

Age-Well市場の「イノベーター」であるために

岩井)最後に「Age-Well」について考えていきたいのですが、まずはこの言葉を読んでいただきたいです。

この問いを見て、かなり現代的だと思いませんか。まさに本日のテーマと言えますが、実は1986年に出版された『老いの発見』の中に書かれた問いなのです。

奥谷)バブル時代ですね。

岩井)そうです。アメリカで先ほどの「Age-Ism」が出て、その後に日本でも「老い」の研究が進む中で出版された本ですね。

奥谷)『老いの発見』というタイトルも面白いです。その当時に考えられた「高齢化」と今、我々が考える「高齢化」という言葉、同じ言葉でもその意味は全く異なってきているわけですね。

岩井)この本に関してもう1つ面白いのは、医学者の日野原先生や心理学者の河合隼雄先生、哲学者の鶴見俊輔先生らが編集者として名を連ねていることです。様々な領域の研究者が共に「老い」を考えることによって、新たな老いの意味と価値を考えることに挑戦したのがこの本なのです。その問いに対する答えを、おそらく我々は永らく持っていなかったと思います。価値観・考え方・どう考えるべきかに応えるものとして提唱されたのが、まさに今回のイベントのテーマである「Age-Well」だと思います。この言葉によって、ようやく我々は新しい価値観を手にしたと言えます。

奥谷)この「Age-Well」という言葉を、我々がこれから大事に育てていかなくてはならない。言葉には波及する力があります。そして、言葉とともに市場が生まれる。言葉ができることによって世の中の見え方が変わり、市場が生まれる。マーケティングでは当然のことだと思います。今回「Age-Well」という言葉が手に入ったとすると、「Age-Well市場」というものができるのではないかということです。

奥谷)そうですね、これを創っていかなければなりません。

岩井)まさに「挑戦と発見を通じてポジティブに歳を重ねる」行動を支援しようという市場が生まれてくる。本日ご登壇された皆さんは、まさにそのことを事業として興していますが、これが徐々に市場を形成していったとき、何が起きるのかということです。

奥谷)例えば、私の見立てではファミトラさんは人間の頭ではできないことをテクノロジーで行っているわけです。スケッターさんは、最初はまさにロボットですが、テクノロジーではなくヒューマンのテクニックの方に行ってうまくやっているわけです。なので、それぞれのポジションで「Age-Well市場」を創るには、いずれにしても、テクノロジーと社会的規範を変える態度変容を起こさせる言葉やサービスを提供する、それが非常に大事なのではないでしょうか。

岩井)そうですね。そういったものを持ってらっしゃる方々の「企業」としての成長性は大事だと思いますが、俯瞰的に見て「Age-Well市場」が本当に心理変化を起こして世の中に広がっていったとき、それぞれの事業のポテンシャルはどのくらいあるかというところで考えていただくと、我々は非常に大きな領域でスタートを切ってるということが言えます。

奥谷)ある種、ここにいらっしゃる皆さん、そして全てのスタートアップに言えることかもしれませんが、今までの社会的な規範や価値観を変えているわけです。

岩井)そうですね。今申し上げたことを最後にもう1度、「イノベーション」に立ち戻ってみていただくと、実はもう1つ、この「イノベーションのトライアングル」というフレームが示していることがあります。それは、社会構造が変われば新しい課題が生まれ、それに対して技術革新が組み合わされると、新しい価値が生まれる。そこで心理が変わっていくと、今度は新しい市場が生まれる。新しい市場が生まれたら、今度は社会構造がまた違う形に変わっていく。ここには、そのような循環が示されています。

これに先ほどの3つを合わせると、「Age-Ism」という新しい課題が生まれ、その中に「Age-Tech」という技術革新が組み合わさって、「年齢によって差別、あるいは制約されることはない」という新しい価値観が生まれます。これがまさに「Age-Well」です。「Age-Well」が浸透すれば、新しい市場が生まれ、そのことによって今度はまた社会を変えていくことができる。この循環が、今起きている。まさにAge-Wellイノベーションのストリームであると思います。

奥谷)そうですね。冒頭にも言いましたが、イノベーションにおいて我々が1番考えなくてはならないのは、やはり人間の心理変化をどう起こすかです。これまで頭の上の方にあった無意識の差別が日本人にはたくさんあるわけです。それに対して、私がこの「Age-Well」という言葉に期待をしているのは、この無意識の差別にアタックしたときに、様々なテクノロジーによって心理変化を起こし、世の中を良くしていくだろうということです。

岩井)そうですね。この循環が回ることが世の中が変わっていくことではないかと思います。世の中の仕組みや競争原理が大きく変わることを「パラダイムシフト」と言ったりしますが、これに関して、アメリカのコンサルタント、ジョエル・パーカーが1995年に書いた本には大事なことが書かれてます。「自分の将来は自分の手でつくれるし、そうしなければならない。さもないと、ほかのだれかに自分の将来をつくられてしまう」というフレーズです。新しい競争原理の中で先頭を走るということが、いかに自分の将来をつくるためには重要であるかということです。つまり今、「Age-Well市場」が全く読めない、規模も正確に把握できない、それが信じられないということは当然あるかもしれません。ただ、この可能性にどれだけかけることができるかに関して、我々を含め皆さんは現在、良いポジションにいるということです。加えて、ジョエル・パーカーはどんな専門性を持ってしても、未来を予測することは難しいとして、先駆者たちの言葉を挙げています。まずはエジソン。彼は「蓄音機に、商業的価値はまったくない」と言いました。また、トーキーを発明したワーナーブラザーズの創設者は「俳優の声を聞きたいと思う人などいるわけがない」という言葉、そして、IBMの初代社長として有名なワトソンは「世界で、コンピュータの需要は5台ぐらいだと思う」と言いました。この方々は本当の「イノベーター」であり、彼らの価値を下げるものは全くありません。ただ、我々が本日意識したいことは、先ほどの先駆者の皆さんの発言が「技術の力を過小評価したものではない」ということです。彼らが初期に一時的に過小評価してしまったのは「技術」ではなく、顧客の心理変化が起きたときの「爆発力」でした。つまり、本日皆さんは少なくともこの場所にいて、「Age-Well」という新しい価値観を手にしています。皆さんはまさに、その社会の最前線にいらっしゃるということを改めて認識し、ここの価値観を共に育て、イノベーションの先駆者として市場を創り、この国の社会を変える主体者を目指していただきたいと思っています。

奥谷)そうですね。「Age-Well」という言葉をマーケットにしていくことが皆さんをより良くする。そして冒頭にも言った通り、我々は結局、生まれてから死ぬまで「Age-Well」でいたいと思っている。だからこそ、そのためのマーケット、新しい市場を、皆さんと共に創っていきたいです。

超高齢社会研究ネットワーク「AgeWellJapan Lab」

奥谷)最後にもう1つ。本日のカンファレンスの内容も含め、超高齢社会を研究するネットワークとして、私たちが監修している「AgeWellJapan Lab」というものがあります。ここでは、カンファレンスにご参加された皆さんにも取材をさせていただきながら、対話し傾聴することを通じて知り得た生の声を元に、「Age-Well」という価値観やその実態を考察し、さらに理解を深めていきたいと思っています。こうした取り組みが新しいマーケットを創り出していくと考えているので、引き続き「AgeWellJapan Lab」にも注目していただければ幸いです。

岩井)こちらの「AgeWellJapan Lab」は、「生活者」、「研究者」、「事業者」の三者がネットワークとして繋がってる、新しい研究の形となっています。先ほどの話も踏まえて、この三者は何を意味しているのかというと、研究者は「社会」 、生活者は「顧客としての心理変化」、そして事業者は「Age-Techの持ち主」です。このような方々が社会を変えていくときに一緒になって、「Age-Well」というものを研究するネットワークです。本日このカンファレンスにご参加いただいた皆さんは、もう「AgeWellJapan Lab」の一員です。ぜひこのネットワークに参加していただき、我々が掲げる「Age-Well」を共に考えていければと思います。

奥谷)では、本日の我々のお話は以上になります。ありがとうございました。

岩井)どうもありがとうございました。