
2023年12月7日
Age-Well Design Labでは、挑戦と発見を通じてポジティブに歳を重ねる”Age-Well”を体現されている方へのインタビューをお届け。Age-Wellな生き方を発信していきます。
今回は、孫世代の相棒サービス「もっとメイト」を利用されている飯田慶久(いいだ・よしひさ)さんにインタビュー。飯田さんは、代々続く刀剣商の4代目として日本の伝統文化を大切にしながらも、社会に関わり続けることとその変化を受容することに積極的な方です。そんな飯田さんから、担当のAge-Well Designer(以下、AWD)は日々「Age-Well」を分けてもらっているそうなのですが、今回はAWDにまで影響を与える飯田さんの「Age-Well」の秘訣についてお話を伺いました。
インタビュアー:秋山)飯田さん、本日はよろしくお願いいたします。飯田さんは、家業を継いで日本刀のお店を経営されているんですよね。
飯田さん)私は4代目でしたが、今は息子に5代目を継いでもらっています。うちは、江戸時代、長野県にあった高遠藩で5代にわたって武士をやっていたんですよ。 それが明治時代になって解体されてしまったわけですが、刀の知識があったので明治13年に創業したそうです。今年でちょうど創業145年を迎えます。
秋山)東京で1番の老舗だそうですが、それだけ歴史のあるお店なんですね。家業を継ぐというのはどんなお気持ちなのでしょうか?
飯田さん)私自身、家業を継ぐということは当たり前だったので、それが嫌とか、なんでだろうとか不思議に思うことはなかったです。昔の商家の家は、みんなそうだったのではないでしょうか。ただ、学生の頃は漠然と家業を継ごうと思っていただけで、日本刀について真剣に勉強しようなんて思ってもいなかったんです。ですが、父が体調を崩したタイミングで自分が家業を守らないといけないと思うようになり、真剣に勉強を始めました。
秋山)人に言われて始めるのと、自分から始めるのとでは違いますよね。実際、家業を継がれた後は、お仕事にどんなやりがいや楽しさを感じていましたか?
飯田さん)日本刀というと、人を殺めるものというイメージがありますよね。戦国時代の武士やヤクザが振りかざしているイメージです。でも、本来、日本刀とは単なる武器ではなくて日本人の信仰の対象として神社に祀られたり、宮中の儀式や結婚式、お葬式などで使われるものだったんですよ。たとえば、今でも和装の結婚式では、花嫁さんは胸元に短刀を差す。これを「嫁入り短刀」というんですが、その昔、お嫁に出す方の親が娘に守り神として持たせていたものなんです。こういう慣習や日本刀に込められた想いというのが、平安時代から今日までずっと伝わっているわけです。今もなお1000年前に作られた日本刀が錆びずに保管されている神社がありますよね。それだけ、日本刀は人から人へと大切にされてきたものなんです。こういう「日本人にとっての日本刀」を深く理解すればするほど、やっぱり面白かったです。
また、接客の仕事自体にもやりがいを感じていました。名刺をたくさん作って、来客した人は全員自分のお客様にしようと丁寧に接客していましたね。でも、若い頃は、刀についての知識もそんなにないわけです。下手すれば、20年も30年もコレクターをしているお客様の方が詳しい場合がある。だから今振り返ってみると、若さゆえの情熱を買っていただいていたんだと思います。当時のお客様は、自分の父親世代の方が多かったので、「この坊や、一生懸命やってるな。じゃあ、この子から買ってあげよう」とね。中には、毎朝、電話をかけてくるお客様もいました。朝8時にピタって電話がかかってきて、「どうだい、決心がついたかい」と、欲しいものを値切るわけです。「いや、これ以上まけられません」と言うと、「じゃあまた明日ね」と言って電話をきる。それが10日くらい続くと、さすがに購入してくださって「じゃあこれで手を打つから、明日届けてくれ」なんて言われてね。だから、本当に値切りたいというよりは、その過程や会話を楽しんで下さっていたんだと思います。
秋山)今はネットショッピングが主流で、お店に足を運んで、お店の人と話をして交渉して物を買うってことはほとんどないじゃないですか。でも、昔は物の売り買いだけではなく、その間に人間関係みたいなものもあったんですね。
飯田さん)今の商法とは全然違いますよね。昔はお客様との信頼関係ができると、「飯田さん、あの作品とっておいてください」とか「いくらかにまけてくれませんか」というやり取りがあって、自分にお客様がついてくれるようになるんです。この間、お客様と展覧会へ行った際には「展覧会とても楽しかった。でも、私はそれ以上に、飯田さんと久々に会えてお話できたことが何よりも楽しかった」なんて言っていただいたんです。お客様と信頼関係を築いた結果、こういう言葉をかけていただけるのは嬉しいじゃないですか。今はもうインターネットでお店の人の顔を見ずとも、たくさんの商品から比較検討して買える時代になっていますがね。
飯田さん) ですが、最近は私のお店に若い女性の方がよくお見えになるんですよ。令和になり、刀剣乱舞というゲームから火がついて、 日本刀を知ってもらえるきっかけができたことは本当に嬉しく思っています。
秋山)私たちのイメージでは、日本の古き良き伝統を守りたいという方の中には、アニメやゲームなどのエンタメ要素を加えられることに抵抗を覚える方もいらっしゃるのではないかなと思うんです。でも、飯田さんは、日本刀をはじめ日本の古き良き伝統を大切にしながらも、私たち世代の価値観や興味を尊重してくださっていますよね。
飯田さん)そうですね。実は、アニメと日本刀作家とコラボして展覧会をしたとき、その方法に賛同しない人もいたんです。それで日本の文化を守れるのかって、批判的な態度をとる人もやはりいますよね。でもこの企画で、すごい人数の若い人が押し寄せてきた。今までにない興味と関心を寄せていただいた。この結果を見て、そういう人たちも考え方が変わってきたみたいです。結局、日本文化の発展という意味での方法が変わっただけということ。世代や立場に関係なく目的は同じ、みんな目指すところは同じなんです。だから、今はたくさんの人に知ってもらうようなきっかけを作っていきたいと思いますね。日本には、日本刀をはじめとする良い伝統文化がたくさんあるんです。それを若い人と一緒に少しでも残せていけたらなと思っています。
秋山)飯田さんは、人との繋がりやご縁をとても大切にされていますよね。人との関わりにおいて大切にしていることがあれば、お聞かせください!
飯田さん)人との関わりにおいて若い人に言いたいことは、何か出会いがあったときにはその出会いを大切にしたほうがいいということです。多くの人にとっての出会いは、同じ学校や同じ会社で起こるものですよね。私は自分の人生を振り返ってみると、学校や会社での出会いもあったけれど、偶然出会った人との出会いも同じくらい大切にしてきました。つい先週会った親友は、たまたま海外旅行先で知り合った方。若い頃はあまり意識しないけれど、そういう偶然の出会いっていうのはあるんですよね。 それを逆に意識して、何か出会いがあったときには、その出会いを大事にしようという気持ちを常に持っておいてほしい。年齢に関係なく、出会いはどこにでもあるからたくさん出会いを経験してほしいなと思います。
秋山)そのような出会いを大切にすることで、飯田さんの人生にどのような影響がありましたか?
飯田さん)プライベートでも、仕事でも、自分の人生を助けられたことがたくさんありました。昔、西武百貨店にあった中国の焼き物についてのカルチャースクールが面白そうで、20代の頃に通い始めたんです。その講座の先生は、当時私より10歳以上離れていたのですが、すごい方でした。 先生は、50人ぐらいの生徒さんの前で、世界中の博物館のいわゆる国宝級のものを全部スライドで投映しながら説明していくんです。その教材も、ほとんどが自分が足を運んで直接撮ってる写真。それで先生にぜひ一度お話を聞いてみたいと思ってお茶に誘ったら、「あら、いいわよ」と言っていただいてそこでお話を聞くことができました。たとえば「先生は世界中飛び回っているけれど、語学はどうしているんですか」と聞いたら、「私は7か国語喋れるの。全部ラジオ講座で覚えたのよ」と。そういう頭の持ち主だから、焼き物も深く勉強しているんだなと納得がいったわけです。
その数年後、根津美術館に就職した先生から「うちに刀があるから来てくれない」と久しぶりに連絡があり駆けつけました。この時、相談されたボロボロの鎧は価値がある物だったので、東京国立博物館の修理職人さんに直してもらうことを進言したんです。
これが40年前の話なのですが、去年、この鎧が国の重要文化財に指定されたそうです。私は40年ぶりにこのご縁を振り返って、びっくりしたわけです。きっかけは興味本位で通い始めた西武百貨店のカルチャースクール。それも最初は先生と生徒の関係だったのに、一緒にランチしたり、お手伝いに行ったりして関係を続けて、今ではその根津美術館に息子もお世話になっていて、学芸員さんに色々と相談させてもらったりしているのだから、本当に不思議な縁だと思いますね。根津美術館の先生と出会ったのも、ダメ元で声をかけてみたのがよかった。こっちは一生徒だから、お忙しい先生がお茶に付き合ってくれるとは限らないけれど、こういう出会いに諦めないで自分から働きかけてみるのが大切だと思います。
秋山)どんな出会いにも、一生の人間関係を築ける出会いやその可能性があることを常に考えておいた方がいいということですね。
飯田さん)ちょっとした出会いがそのまま終わっちゃうこともあるし、そうやって50年も続くこともある。最初は、そんなに長く続く出会いになるとはわからないですよね。でも、実際にそういうことがあるので、出会いは大切にされたらいいと思います。どこにどんな出会いがあるかわからない。そういう出会いがあっても、そのまま、通り過ぎてしまうこともあるだろうけれど、それを掴んで一生の友や仲間を得る人も実際にいるんですよね。
秋山)今のお話を聞いたら、小さな出会いも大切にしていきたいなと思いました。そういう出会いに気づくコツはありますか。
飯田さん)「直観力」です。少し話は逸れますが、昔、ある会社の社長さんと面会する機会がありました。その社長さんは本当に忙しかったので、面会者用の6部屋ある応接室を15分おきに回るような方だったんですよ。結局、話が弾んでしまって15分の面会が1時間になってしまったのですが、そのとき、話し込んでいた内容が「直観力」。長時間かけて色々調べて判断を下すのではなく、瞬時にして結論を出す方が、良い判断ができる場合があるということを、その社長さんから教えていただいたんです。「私はね、仕事柄忙しいし、毎日面会するお客さまも多いから、仕事の判断は直感力でしているんだ」と。そういうのは持って生まれたものかもしれないけども、意識的に考えてみるのは面白くないですか。理屈っぽく考えて、判断力を早くしようと意識して瞬時に判断を出す。それから、私は接客業でしたから、お客さまがどういう方で、どういう思想を持っているのか、どういうことを求めているのかを考えてみるようにしたんです。そうすると、相手のことが意識的にわかってくるようになるんです。
秋山)私たちAWDも、シニアの方との「傾聴・対話」のなかでその方が何を求めているのかを意識的に考えるようにしているので、似ているかもしれませんね。今のお話では、直感力が人との関わりや出会いにおいても、大事なポイントになるということでしょうか?
飯田さん)はい。偶然起こった小さな出会いでも、この人とは仲良くした方がいいぞと、ビビットくるものがあったらその出会いを大切にしたほうがいいと思います。
秋山)ちなみに原口さん(飯田さんを担当しているAge-Well Desiner)と出会われた時は、ビビッとくるものがありましたか。
飯田さん)はい(笑)。私としては原口さんにとても感謝しているんです。私はこちらの会社にお世話になる前に、スマートフォン講座を新聞広告で見ていたのですが、コロナの影響で全て中止になってしまって。困ったなと思って調べていたところ、AgeWellJapanを見つけました。そこで原口さんと出会ったのですが、スマホについて同じことを何度質問してしまっても、変わらず丁寧に優しく教えてくれるんですよ。原口さんのおかげで、今日に至るまで約2年間お世話になっています。
秋山)原口さんも、「飯田さんに出会ってなかったらAWDを続けていなかった」と話していましたよね。
原口)はい、僕の方こそ飯田さんに感謝しています!AWDの役割は、シニアの方の人生に伴走することで、その方を「Age-Well」にすること。でも、この2年間を振り返ってみると、Age-Wellにさせてもらっていたのは僕の方でした。人生の先輩として飯田さんにたくさんのことを学ばせていただきましたし、飯田さんと関わるなかで自分の役割や価値を見出せていたと感じています。
飯田さん)私は仕事柄、ご年配の方と接することが多かったんです。若い人と話す機会はほとんどなかったので、原口さんとの時間は私にとって新鮮で楽しいんですよ。
秋山)先ほど、若い頃は情熱を買ってもらっていたというお話がありましたが、逆に飯田さんは今のご年齢になって、若い子が頑張っているとそういう気持ちになりますか。
飯田さん)私もそうなりますね。当時はわかりませんでしたが、この歳になってからは「 よく20代の若造から刀を買ってくれていたな」と感謝を感じるようになりました。1度、お得意さんに「どうしてここまで私のことを面倒みてくれるんですか」と質問したことがあるんです。そしたら、その方は私にこう言いました。「男が男にホレたんだ。俺はね、君のことが好きなんだよ」と。当時、私は30代で先生が60代くらいの時でした。「お前のためになりたいと思ってやっているんだ。これはお金の問題じゃないぞ。俺はね、1日100万円もらったってこんなことはしないぞ。だから、君もしっかりやり」と言ってくれたんです。当時の一生懸命さを買ってくれて、更にこんなお言葉をもらったら、なんとしてもその先生のために頑張ろうと思うじゃないですか。やっぱそうやって返していくものだと思うんです。いい人との出会いは、特に大切にしてください。そうすれば、「相手に返したい」「相手を大切にしたい」という自分の気持ちが伝わるから長く続くし、自分にも倍になって返ってきます。
秋山)情熱を買っていただいていた若い頃の飯田さんが、その出会いを長く大切にしていくなかで自らも歳を重ねていき、相手に返せるものが増えていく。また自分に返ってくるものも増えていくという縁の続き方が、本当に素敵だなと思いました。飯田さん、本日は貴重なお話をありがとうございました。
私たちAWDの役割は、シニアの方がポジティブに歳を重ねていけるよう伴走することです。しかし、飯田さんの担当AWDである原口さんが「メイトさんである飯田さんが、AWDである自分をAge-Wellにしてくれた」と語っていたように、その関係は双方向のものでした。若い頃の情熱が認められ、育まれた縁が今でも続いている。そして今では、若い人を応援し、その縁を次世代へと紡ぐ循環がお2人の関係の中に見えた気がします。今回のインタビューを通して教えていただいた、小さな出会いにも積極的に働きかけ、それを大切に育んでいく姿勢ーこの飯田さんの「Age-Well」の秘訣を、私自身も実践して広めていきたいと思います。
(インタビュー・編集:秋山珠季)