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2023年9月27日 Age-Well Design Lab

【シニア傾聴インタビュー_vol.3】やさしさの中に、強さを秘める。

 AgeWellJapan Labでは月に1回、挑戦と発見を通じてポジティブに歳を重ねる”Age-Well”を体現されている方へのインタビューをお届け。Age-Wellな生き方を発信していきます。

 今回は、横浜・二俣川駅の多世代が集うコミュニティスペースであり、AgeWellJapan Labの拠点でもある「モットバ!FUTAMATA RIVER LIBRARY」に通う、西村直子(にしむら・なおこ)さんにインタビュー。

 普段から笑顔と好奇心にあふれる方で、「お花が大好き」と優しく語る西村さん。今回の対話を通して、西村さんのしなやかな強さが見えてきました。戦争の記憶や息子さんの死を胸に抱えながら強く生きる西村さんの、「Age-Well」に迫ります。

戦時を顧みることで、今を精一杯生きる。

インタビュワー・荒生)西村さん、本日はよろしくお願い致します。まずは、幼少期の話をお聞かせいただきたいです。

西村直子さん)私は、1945年の3月、東京大空襲の数週間後に生まれました。父は出征準備で家にいないタイミングでした。生後すぐ、東京が危ないので母は兄と生まれたての私を連れて親戚の家に疎開しました。疎開先では空襲に遭ったそうです。私自身は戦争の記憶はないけれど、母から話を聞いて「私は戦争の生き残りなんだな」と子どもごころに想いました。母は、とても苦労したんだろうと思います。

荒生)今では信じられない体験ですね。

西村さん)終戦後、帰ってきた父が工場を立ち上げたのですが、入れ替わり立ち替わり色んな親戚が父のもとに働きに来ました。父は戦場には行かずに終戦を迎えたため、責任を感じて色々な人の面倒を見ていたんです。戦争はもちろん大変だけど、終戦を迎えたからといってその苦しみや辛さは終わらないんですよね。終戦から10年経った中学生の頃、山手線で白衣を着た傷病兵を多く見かけました。もう戦争が終わって78年なんて言うけれど、本当の意味では終わっていないんじゃないかと思うんです。ニュースで戦争のことを聞くとどうしても当時のことを思い出すし、人々の心の中に辛さはのこる。やっぱり戦争をするっていうことは、ずっと後を引くのね。

荒生)そうだったんですね。私は終戦から半世紀以上経った後に生まれて、教科書だったり祖父母から聞いた話しか知らない世代です。今の時代が楽かどうかは分かりませんが、少なくとも明日の食べるものや命の危機を自身が感じること、周りが感じることは全くありません。そういった意味で「戦争」を経験された方の強さを感じます。短絡的に目の前の不幸に自分を押しやってしまわないためにも、過去の時代を顧みてリスペクトを抱くことは大切だと感じています。

西村さん)今の時代は今で精いっぱい楽しんで良いですが、こうして平和でいられるのはそういう苦労が過去にあったということを思い出さなきゃいけないですね。私は終戦間際に生まれて、幼すぎて戦争の記憶はないけれど、実際に戦争を経験した方の想いを思い出しながら今を本当に精一杯生きないといけないと感じます。生活を送る中で誰しも気に入らないことはあると思うけど、戦争を乗り越えた世代が苦労したことを思えば、いま自分の目の前にある不満に集中することなく過ごしていけると思うんです。

「アラネバナラヌ」を取り除く。

荒生)西村さんは日々、習慣としていることはありますか?

西村さん)自分が大切な言葉やラジオや本等で知った一節を、クロッキー帳に書いています。

荒生)この中で、一番西村さんの心に残っているものは何でしょうか?

西村さん)実は20年前、私は息子を亡くしました。原因はうつ病で。直後は、息子とちゃんと向き合っていなかったことにすごく苦しみ、悲しみがうずまいてふさぎこんでしまっていました。その頃に出会った仏国寺の老師様に頂いた詩の中に、

「今ここ、この生命の事実。生かされている安らぎ」

「”アラネバナラヌ”」

という一節があったんです。

これを聞いた時「何かをしなければならぬ」という考え方から脱出することができました。当時は考え込んでいたけれど、この一文のおかげで少しずつ「今ここ」に注力できるようになったと思うんです。でも、命日や誕生日の時期は、今でもやっぱり思い出して苦しい気持ちになります。

また、もう一つ大きかったのが弘前の佐藤初女さんとの出会いです。初女さんは丁寧に息子についての話を聞いてくださりました。「祈りには、動の祈りと静の祈りがあり、誰かの為に動く事も、ただ祈る事も、どちらもかけがえの無い祈りの姿だと思います。」この言葉との出会いで、これは自分が乗り越えなきゃいけない試練だって思うようになったんです。試練を乗り越えた人って、悩みながらもたくましくなるのよね。老師様のまわり、佐藤初女さんのまわりにはたくさんのご縁がありました。その方たちとの出会いも大きな支えになりましたね。

私も相手も、自分らしく。

荒生)その後、どのような変化があったのですか?

西村さん)息子に背中を押されて、少しでもできることをやっていけばいいんだと思い、ボランティアをやることを決心しました。元々、幼少期から土いじりが好きだったのをきっかけに、ガーデニングのセミナーに通っていたんです。家の庭の空間づくりから始まり、知り合いのお庭を設計したり。不登校の子たちが集まるNPOのお庭作りを子供たちと一緒に行いました。

西村さん)ボランティアをやっている中で上手く行かないこともありました。ボランティアの仲間が「西村さん、やっていることの大きい小さいじゃないのよ。誰かに褒められて目立っている人だけが偉い訳じゃないから。」って。私はまだ”アラネバナラヌの中”(=○○しなければいけないというしがらみの中)にいたのです。自分にできることを、やっていく。だから、他の人に対しても、批判したり責めたりしない方が良いと思うんです。何の苦労もないように見える明るい人も、実はみんな抱えているものがあるのだと思います。自分らしくいることが大事ですね。どうしても他人と比較してしまうけれど、人と比べても意味なんてない。それぞれ立場が違えば、考えることも違うことを意識して色々な考えを受け入れることが、結局、自分の心を安定させられる近道だと思う。それを悟るのには時間がかかっちゃったけどね。

Age-Wellとこれからについて

荒生)様々な経験を積み重ねてきた西村さん、今はどのようなことに取り組んでいるのですか?

西村さん)英語の勉強やスマホの勉強、またボランティア活動など。何事にも好奇心を持って取り組むようにしています。広く浅くだけど (笑)。ただ、自分の目の前にふりかかったことだけではなく、広い視野で勉強して世の中の流れを分析していかないといけないなと感じています。また、コロナをきっかけに、足元を見るようにもなりました。今までは旅行などを含めて「遠くに行きたい」という気持ちがあったけれど、出来ること、楽しいこと、面白いところは身近にいっぱいある。今は地元で出来ることに取り組みたいです。

荒生)西村さん、本当に多くのことに挑戦されていますよね。日々勉強する中で、最近の社会について感じることはありますか。

西村さん)困難を抱える方が差別をされてしまう社会は変わっていく必要があると感じますね。何らかの困難を抱える方にとっても生きやすい社会になったら良いなと思っています。

荒生)ありがとうございます。最後に、人生100年時代に対して一言お願いします!

西村さん)「青春とは年齢ではなく、心のありようだ」という言葉を時々思い出して、自分のあり方を確認しています。「青春」という言葉を思い出して、好奇心を持ったり何かにチャレンジできる場所が、ここモットバ!だと思うんです。最近は、マインドマップに挑戦しています。心の健康、体の健康のバランスを取りながら、モットバ人生を楽しみたいです。

対話後記

撮影と取材の合間、私にお花の品種をひとつずつ教えてくださる西村さんの姿もあれば、様々な経験を元に強く意思を持って話す西村さんの姿もあり、その優しさに包まれた強さに感銘を受ける時間でした。インタビューの中で、西村さんが「試練を乗り越えた人って、悩みながらもたくましくなるのよね。」とおっしゃっていましたが、これはまさに西村さんそのものだと感じます。改めて、ありがとうございました。

(インタビュー・編集 荒生真優)